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岸田文雄首相は韓国の尹錫悦大統領とリトアニアで会談し、東京電力福島第1原子力発電所の処理水海洋放出計画について説明した。両首脳は安全性の確保と透明性の高い情報の速やかな公表などを確認した。
国際原子力機関(IAEA)は、計画が国際的な安全基準に合致することを包括報告書で認めており、韓国政府も独自の検証結果を踏まえた上で問題がないとしている。尹政権の科学に基づく理性的な対応は、日韓両国の関係改善にも資するものだ。これを歓迎したい。
だが韓国では野党が処理水を「汚染水」などと喧伝し、放出に反発している。国民には海産物汚染への警戒心が生まれ、塩の買い占めも起きている。放出後の海水塩ではキムチが漬けられないとのデマに踊らされた行動だ。
本来、IAEAが安全性を確認した処理水放出は日本政府の判断で実施すべきもので、周辺国の了承が必要なわけではない。それでも無用の風評が広がらぬよう、より平明な安全情報を諸外国に発信する努力が求められる。
尹政権に比べ、中国の反応はあまりにひどい。IAEAや日本の科学的説明には耳も貸さず、処理水を「核汚染水」などと表現している。福島第1原発で計画しているより数倍多いトリチウム水を自国の原発から東シナ海などに流している不都合な事実は完全無視の一方的な攻撃だ。
「海洋は世界の公共財産で日本の『下水道』ではない」「放射能汚染水の放出は海洋環境の安全と人類の生命、健康に関わる」などの暴論が聞こえてくる。処理水を放出すれば「一切の結果を引き受けなければならない」とも威嚇している。ならば、新型コロナをはじめ、宇宙ごみや漂着ごみ、二酸化炭素の大量排出などについての中国の責任を問いたい。
中国政府の強い影響下にある香港政府が日本の水産物禁輸の拡大を示唆したのも残念だ。ロシアや北朝鮮も放出に反対している。
岸田政権はこうした妨害に負けてはならない。米国はIAEAの包括報告書の支持を表明している。欧州連合(EU)も日本産食品に課してきた輸入規制の完全撤廃を発表した。
世界には処理水放出が福島復興につながることを理解してくれている国々も多いのだ。漁業者の理解を得つつ準備を進めたい。
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2023年7月14日付産経新聞【主張】を転載しています